浴室の細かいところ(排水溝とか)を歯ブラシで掃除していると、子どもの歯磨きをしているような気持ちになってくる。 最初はやさしく磨いてあげるが、すき間にこびりついた汚れは簡単には落ちず、次第に歯ブラシを握る手に力がこもってくる。痛がって子どもは泣くが、その泣き声と落ちない汚れがよりいっそうわたしを苛立たせ、最初にはあったはずのやさしさや愛情が薄れていき、憎しみさえ込めてガシガシ磨く。 しまいには排水溝を磨いているのか口のまるい奇形の児の歯磨きをしているのかもわからなくなり、ただキンキンと耳障りな泣き声だけが浴室に響く。
不動産とか投資とか、そういう関係の不審電話がお医者さんのみんなたちにかかってきてるから気をつけてね~っていうのが院内で話題になっていて、ちょうどそれに引っかかっちゃった若い女性の先生 ( 〇〇先生 ) がいたから他の先生たちから今度は得体の知れない業者にお金払っちゃダメだよって言われていたの。そこまではよかったのだけど、その場にいた中年医師が急に「〇〇先生はさ、悪い男にも引っかかりそうだよね」って言い出したのよ。ああん?てめえ自分がどれだけ失礼なこと言ってるかわかってんのか?大体それいまの話題と関係ねえだろうが。何勝手に話題をすげ替えてやがんだって胸ぐら掴んで伝説になっちゃってもよかったのだけど、まだ 6 月だし、今年度始まったばっかりだし伝説になるには時期尚早かなあって黙っていたら、「相手が浮気しても、急な当直で遅くなっているのかなあとか、都合よく解釈してくれそう」「相手が違う医局なら何やってもバレなさそう」「なんなら同じ医局でも気づかなさそう」って最低な発言を繰り返していて目の前の〇〇先生のことを傷つけ続け、挙げ句の果てには浮気の話で盛り上がりだして「男ってのは誰でも浮気するよ。そういうものだから」「ぼくの奥さん、結婚前にはぼくは浮気すると思うよって言ったらちょっとの浮気は許すって言ってたのに今は浮気許さないと言っててこれこそちょっとした詐欺だと思う」ですって。このあいだも言ったけど脱穀機にでも突っ込んでいなさいって話よね。〇〇先生にかわって、お前みたいのを選んでないだけ〇〇先生は賢いんだよ。てめえに侮辱される筋合いはねえんだよ。そんなこともわからねえのか。なんならナニだけじゃなくて全身脱穀機に突っ込んでやろうか?浮気よりもよっぽど刺激的だろうがよって脱穀機持ち出して伝説になっちゃってもよかったのだけど、先月の誕生日に恩師に「よい研修生活ができるといいね」って言ってもらったばっかりだったから、恩師が悲しむかなあと思って、もともと同じカンファ室でカルテ書いていただけでわたしはこの会話に参加してなかったわけだ し、 Enter キー強めに叩くだけで黙っていたの。 次やったらわたし、伝説になるわ。
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